最近、良く耳にするのが「顧客体験」もしくは「ユーザエクスペリエンス」という言葉です。
これらは商品やサービスの差別化が困難になってきているため、顧客の状況に合わせた体験を提供することによって別の観点から差別化を図る動きです。
また、インターネットとスマートフォン、SNSなどの普及により顧客接点(タッチポイント)が従来より増え、顧客と販売者側との関係が変わってきていることからも「顧客体験」が重要視されるようになっています。
今回の記事では「顧客体験」のうち特に「購入後」の顧客体験に焦点を当てて、解説と具体的にどのように設計すればいいかを書いています。
「顧客体験という言葉を耳にするが、よく分からない」
「顧客体験の意味は理解しているつもりだが、なぜ重要なのかわからない」
「顧客体験を一貫して設計したいがやり方がわからない」
などとお考えのECサイト担当者の方に必見です。
目次 1. 顧客体験とは 1-1. 顧客体験(CX)とは何か? 1-2. 「購入後」の顧客体験とは? 2-1. 顧客体験が重要となる背景 2-2. 購入後の顧客体験が重要な理由 3-1. ペルソナ設定 3-2. カスタマージャーニーマップの作成 3-3. 各部署への落とし込み 4. 成功事例 4-1. 桜珈琲 4-2. ロぺピクニック 4-3. PAL CLOSET 5. まとめ |
顧客体験とは、顧客が企業の商品やサービスに興味を持ってから、実際にその商品やサービスを購入し利用するまでの一連の流れのことを言います。
例えば、車の購入を検討しているAさんがその車の購入を決定した時、その要因となるのは車の利便性だけでしょうか?
購入前に各社のサイトで様々な車を検索して比較した時のワクワク感や、ディーラーでの営業マンの接客態度や説明を受けた時のドキドキ感、購入することを決めたときの高揚感など、購入前には様々な顧客体験があり、その一連の流れから顧客は購入を決定しています。
つまり、商品そのものの魅力だけではなく、商品の購入前から購入後までの様々な体験を見極めてオーナーは購入を決めています。
商品自体が顧客に与える体験だけではなく、商品を提供する企業とのあらゆる顧客接点を評価する考え方を顧客体験と言うのです。
消費者が商品やサービスを購入した後の体験としては以下のようなものが考えられます。
・利用継続
商品やサービスを利用して利便性や利用することによる楽しさ、ワクワク感などを体験します。
・不具合時
商品やサービスに不具合があった場合はどうでしょうか?
例えば、購入した靴のサイズが合わなかった場合、顧客は返品を希望します。
返品する過程でカスタマーセンターへ問合せをしたりサイトを調べたりする際に丁寧な説明があったり、簡単に返品できるシステムが存在すると、消費者にとっては心地よい購入後体験となります。
逆に冷たい応答だったり返品するルールや方法がサイトのわかりにくいところに掲示されていたりすると消費者にとっては不快な購入後体験となり、顧客離れにも繋がってしまいます。
返品処理の詳細については弊社の以下の記事を参考にしてください。
返品処理とは?顧客離れを防ぐポイントや便利なサービスまで徹底解説!
・コミュニティへの参加
商品やサービスの口コミサイトは購入前だけではなく購入後もアクセスされます。
ポジティブなコメントに接すると前向きになったり、ネガティブなコメントを見ると購入したことを後悔してしまうこともあります。
また、購入を迷っている人がいると背中を押すようなコメントをしてくれることもあります。
定性的な説明としては、日本ではモノが溢れていることにより同じような商品がひしめいていて、利便性という観点で差別化することが非常に難しくなっていることが挙げられます。
また、日本では成熟社会を迎えていて、モノを所有することがあまり重要視されなくなっていることもあります。
つまり、消費者にとってはモノを購入することにより、どのような体験ができるのかが重要視されているのです。
同じような商品であればインスタグラムで話題となっていたり、高評価となっている商品を選んだり、カスタマーセンターへ問い合せた時に丁寧で親しみやすい応対をしてくれた企業の商品を購入したりすることが多くなります。
上記のことを裏付ける調査結果を下記に示します。
40代以下ではお金よりも時間を重視していますし、所有よりも体験が大切だと全世代が考えています。
また、音楽配信サービスやソフトウェア、動画配信サービス、自動車など様々な商品やサービスでサブスクリプションビジネスが普及していることからも所有よりも体験が大切だとする時代の傾向が読み取れます。
商品やサービスをお客様に提供して利用して頂くシーンを購入前と購入後とに分けると以下のようになります。
タイミング |
販売者側アクション |
購入前 |
SEO対策 Web広告 メールマガジン アフィリエイト施策 |
購入後 |
フォローメール カスタマーサポート |
見て分かるように購入前のアクションはお客様が買う決断をして頂くために様々な方法で販売者側からアプローチをします。
それに引き換え、購入後は販売者側からのアプローチとしてはフォローメールがありますが、カスタマーサポートは基本的に受身なものです。
お客様は商品やサービスというモノを購入しているのではなく、体験を購入しているという観点からすると、購入前も購入後も等しく重要な体験と言えます。
購入前は販売者側からお客様へ向けてアプローチするコトが多く、売上が上がらない場合は原因を見極めて改善するというサイクルが比較的回りやすいです。ところが、購入後の場合は販売者側からすると受身となりますので、改善サイクルが回りにくく、アテンションが当たりにくい部分となります。
しかし、購入後の顧客の体験が悪いものだと商品全体としての体験にネガティブな影響を与え、リピートしてくれないことにもつながりますので購入後の顧客体験も非常に重要な部分と言えます。
競合に勝つために商品やサービスの顧客体験を最良にするためには、次のような設計をしていきます。
1. ペルソナ設定
設計に当たってはマーケティング部門が主導しても、購入前から購入後の体験を設計することから商品やサービスに関わる全部門が参画する必要があります。
ペルソナと似たような概念で「ターゲット」があります。
ターゲットは、
といった設定で、ある集団をセグメント化したものとなります。
一方のペルソナは、
といったもので、商品・サービスを購入する典型的なユーザー像のことを指します。
かつての高度経済成長時代ではターゲットは全ての消費者でしたが、バブル崩壊以後はセグメント化された消費者を対象としていました。つまり、「ターゲット」設定が適していたわけです。
しかし、最近になると消費者の好みや要求が多岐にわたることと競合が多いことから、個人を対象にする必要がでてきたため、「ペルソナ」設定という考え方が出てきました。
ペルソナの設定にはできるだけリアルなユーザー像にする必要がありますので、既存顧客のうち優良顧客のデータと声を収集・分析して行います。
新製品や新サービスですと既存顧客はいませんので、関係部署で議論したり、想定顧客にヒアリングしたりして設定します。
収集し分析した結果を以下のような項目に落とし込んでいきます。
基本情報 |
|
仕事情報 |
|
日常の行動特性 |
|
カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品やサービスを購入して、利用から廃棄までの道のりを描いたものです。
カスタマージャーニーマップを作成することによって、顧客とのタッチポイントを明確にし、それぞれのタッチポイントでの課題と解決策を盛り込むことで最適な体験を設計できるようになります。
入力源として前項で説明した「ペルソナ」設定を用います。
上記は「カスタマージャーニーマップ」の作成例です。
購入後に焦点を当てた「カスタマージャーニーマップ」なので、購入前については割愛しています。
購入前のステージはたとえば以下のようなものがあります。
1. 認知
商品やサービスを認知する段階
2. 情報収集
商品やサービスの仕様や口コミサイト、SNSでの評判などをユーザーは調べます。
3. 比較検討
他社の競合商品も調べて比較します。
・カスタマージャーニーマップの作成ステップ
1. ステージ
ステージは商品やサービスの特性や注力したい領域によって決めていきます。
売上を上げるためには、認知→情報収集→比較検討→購買 が良く使われます。
2. チャネルとタッチポイント
顧客との接点となるものをステージごとに洗い出していきます。
3. 顧客の行動
ステージごとにユーザーの具体的な行動を洗い出して書き込みます。
あくまでもユーザ目線から抽出していきます。ヒアリングなどしてリアルな顧客の行動を取得するのが最良です。
4. 顧客の感情変化
こちらもアンケートやヒアリングなどで各ステージごとの感情を取得しましょう。
感情は喜怒哀楽ですのでアイコンなどで表現するのも分かりやすいです。
5. 課題と解決策
それぞれのステージで発生している課題とその解決策を検討して結果を書き込みます。
作成した「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」を各部署で共有します。
これら2つの資料は顧客体験を提供するためのベースドキュメントになります。
ベースドキュメントを共有することにより、顧客に対してどのステージでも一貫した体験を提供することができるようになります。
「顧客体験」を使って成功した事例を次に紹介します。
URL:https://sakuracoffee-onlineshop.com/
「桜珈琲」は南大阪の人気喫茶店です。
リアル店舗は賑わっているのにオンラインショップの売上げが思わしくありませんでした。
従来は珈琲やお菓子が美味しいことを訴求してきましたが、これを「桜珈琲」店内で味わえる心地よい時間を持つことができるというものへ変換しました。
これによりリアル店舗とオンラインショップの顧客体験が一貫したものとなりブランドイメージが向上しました。
URL:https://www.ropepicnic.com/
ロぺピクニックは株式会社ジュンが運営しているアパレルブランドです。
ロぺピクニックは大規模な広告により新規顧客が獲得できていましたが、顧客のロイヤリティがあがらないことが課題でした。
タッチポイントを洗い出して分析したところ、ポイントカードを出すのが面倒なことが課題であることが分かりました。
そこで、ポイント管理するアプリを解決策として採用したところリピート率が上昇しました。
PAL CLOSETはPAL GROUPが運営しているアパレルブランドです。
オンラインショップでもリアル店舗のような購入プロセスを意識していて、お客様に寄り添った接客を行って体験を向上しています。
1. 初回訪問時にサイトの特徴を4つ表示
ポイントを絞って表示することにより訪問客の離脱防止と会員登録への誘導
2. 閲覧ページに応じたランキング表示
リアル店舗でスタッフが「最近のはやりはこんなのもあります」という声がけをイメージ
3. 購入を迷っていたらクーポン配信
サイトの閲覧状況から購入意欲が高まっているかを判定してクーポン配信
4. コーディネートできる別商品の提案
ポイントはコーディネートできる商品が表示されること
上記のように顧客の状況に応じた体験を提供することによって売上アップを図っています。
今回の記事では「顧客体験」のうち特に「購入後」の顧客体験にフォーカスして説明しました。
通常ですと購買までのステージで済ませてしまう場合がほとんどですが、返品やクレームといった後ろ向きの体験についても洗い出して課題と解決策を明らかにしておかないとリピート客を得ることは難しいです。
ぜひ、今回の記事を参考にして「顧客体験」の設計をしてみてください。
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