「顧客体験を向上させたいが、何から手をつければいいか分からない」
「施策のアイデアはあっても、本当に効果があるのか、どう進めればいいのか確信が持てない」
LTV(顧客生涯価値)向上の鍵が顧客体験(CX)にあると理解していても、多くの担当者様がこのような悩みを抱えているのではないでしょうか。
顧客体験の向上は、思いつきの施策を打つだけでは成功しません。現状を正しく把握し、戦略的にアプローチすることが不可欠です。
本記事では、そんな課題を解決するために、顧客体験を向上させるための具体的な「5つのステップ」をフレームワークとして解説します。さらに、購入前から購入後に至るまで、明日から使える「15の施策アイデア」を豊富に紹介。国内外の成功事例を通じて、LTV向上に繋がる実践的な方法を学ぶことができます。
「知っている」から「実行できる」へ。この記事を読み終える頃には、あなたの会社で顧客体験向上プロジェクトを推進するための、明確なロードマップが手に入っているはずです。
多くの企業が顧客体験の向上を重要視するのには、明確な理由があります。優れた顧客体験は、単に顧客を満足させるだけでなく、計測可能なビジネスの成果となって企業に返ってくるからです。ここでは、その代表的な3つのメリットを解説します。
顧客体験の向上は、LTV(顧客生涯価値)の最大化に直接的に貢献します。顧客は心地よい体験を通じてブランドに愛着を持ち、一度きりの顧客から熱心なファンへと変わっていきます。ファンになった顧客は、商品を繰り返し購入してくれるだけでなく、より高価格帯の商品や関連サービスも利用してくれる傾向があります。
これはサブスクリプション型のビジネスにおいては、チャーンレート(解約率)の改善という形で顕著に現れます。顧客がサービスに価値を感じ続ける限り、解約という選択肢は生まれません。LTVの向上と解約率の改善は、事業の安定と持続的な成長の基盤そのものなのです。
市場にモノやサービスが溢れる現代において、品質や価格だけで他社と差別化を図ることはますます困難になっています。このような状況で強力な武器となるのが、他社には真似できない独自の顧客体験です。
「多少高くても、あのブランドから買いたい」「あの心地よいサービスをまた受けたい」と顧客に感じさせることができれば、無用な価格競争から一線を画すことができます。優れた顧客体験は、それ自体が製品やサービスの付加価値となり、「〇〇といえばこのブランド」という唯一無二のブランド価値を顧客の心の中に確立するのです。
優れた顧客体験は、既存顧客を満足させるだけにとどまりません。感動的な体験をした顧客は、その喜びを誰かに伝えたくなるものです。SNSやレビューサイトを通じて発信されるポジティブな口コミは、企業が多額の広告費をかけて発信する情報よりも、はるかに信頼性の高い情報として未来の顧客に届きます。
このように、熱心なファンが新たな顧客を呼び込んでくれる好循環が生まれれば、CPA(新規顧客獲得コスト)を大幅に削減することが可能になります。つまり、顧客体験への投資は、未来の広告費への投資でもあると言えるのです。
顧客体験の向上は、どこから手をつければ良いのでしょうか。ここでは、ゴールを見失わず、着実に成果を出すための実践的なフレームワークを5つのステップでご紹介します。
最初に行うべきは、自社の顧客体験の「健康診断」です。
まずは現状(As-Is)を正確に把握し、どこに課題があるのかを明らかにします。 NPS®などのアンケート調査で顧客の評価を定量的に把握したり、顧客インタビューで定性的な意見をヒアリングしたりします。また、アクセス解析データや問い合わせ内容の分析も有効です。このステップを通じて、改善すべき顧客接点(タッチポイント)とその課題を具体的に洗い出します。
現状と課題が見えたら、次は「どのような顧客体験を提供したいのか」という理想の姿(To-Be)を描きます。ここで役立つのが、ペルソナ(理想の顧客像)とカスタマージャーニーマップ(顧客が購入に至るまでの道のり)です。 ペルソナが、各顧客接点でどのような感情を抱き、どのような行動をとるのが理想かをチームで議論し、共有することで、目指すべきゴールが明確になります。
理想と現実のギャップを埋めるために、具体的な施策をブレインストーミングします。この時、「効果の大きさ」と「実現の容易さ」の2軸でアイデアを整理し、優先順位をつけることが重要です。「効果が大きく、実現も容易」な施策から着手することで、早期に成果を出し、プロジェクトの推進力を高めることができます。この後のセクションで紹介する15の施策アイデアもぜひ参考にしてください。
優先順位が決まった施策から、計画に沿って実行に移します。ここで重要なのは、施策を実行する前に、その成果を測るための指標(KPI)を明確に設定しておくことです。 「リピート率」「サイトのコンバージョン率」「問い合わせ件数」など、施策の目的に応じたKPIを設定し、施策の前後で数値がどう変化したかを客観的に評価できるように準備しておきましょう。
施策を実行し、効果を測定したら、それで終わりではありません。得られた結果と顧客からのフィードバックをもとに、「なぜこの結果になったのか」「次は何をすべきか」を分析し、改善を繰り返します。このPDCA(計画→実行→評価→改善)サイクルを回し続けることが、顧客体験を継続的に向上させていく上で最も重要なのです。
ここでは、具体的な施策のアイデアをカスタマージャーニーのフェーズ別に15個ご紹介します。自社の課題に合わせて、取り入れやすいものから試してみてください。
お役立ちコンテンツの提供
顧客の悩みや課題を解決するブログ記事や動画コンテンツを作成し、専門家としての信頼を築く。
Webサイトのパーソナライズ
顧客の閲覧履歴や属性に合わせて、おすすめ商品やコンテンツの表示を最適化する。
オンライン接客の導入
チャットボットやライブチャットで、顧客の疑問にリアルタイムで回答し、購入の後押しをする。
UGC(口コミ)の活用
顧客のレビューやSNS投稿をサイト上に掲載し、第三者の声で商品の信頼性を高める。
バーチャル試着・AR設置
アパレルや家具などで、AR技術を用いて自宅で商品を試せる体験を提供し、購入前の不安を解消する。
入力フォームの最適化(EFO)
住所の自動入力機能やステップ表示などで、フォーム入力の手間を最小限に抑える。
多様な決済手段への対応
クレジットカードだけでなく、ID決済や後払い決済など、顧客が希望する決済方法を幅広く用意する。
カゴ落ち対策の徹底
離脱しようとした顧客にクーポンをポップアップ表示したり、カゴ落ちリマインドメールを送信したりして、購入を促す。
関連記事:カゴ落ちとは?意味・原因・対策を徹底解説【ECサイトの売上改善の鍵】
送料やお届け日時の明示
顧客が購入をためらう原因となりがちな送料やお届け日時を、早い段階で分かりやすく提示する。
ゲスト購入機能の提供
「まずは一度試したい」という顧客のために、会員登録なしでも簡単に購入できる選択肢を用意する。
感動的な開封体験(Unboxing)
オリジナルデザインの梱包箱、手書きのサンクスカード、気の利いたノベルティなどを同梱し、商品が届いた瞬間の喜びを演出する。
proactiveな配送通知
「発送しました」という通知だけでなく、「今、お荷物は〇〇を通過しました」といった能動的な追跡情報を提供し、顧客の「いつ届くの?」という不安を期待に変える。
スムーズな返品・交換体験
面倒な電話やメールでのやり取りをなくし、顧客がWeb上で24時間いつでも簡単に返品・交換手続きを完結できる仕組みを提供する。これは顧客の「もしもの時」の不安を解消し、むしろブランドへの信頼を高める機会となる。
購入者限定コミュニティの運営
FacebookグループやLINEオープンチャットなどを活用し、顧客同士が交流したり、ブランドから限定情報を得られたりする特別な場を作る。
パーソナライズされたフォローアップ
商品到着後のタイミングで、使い方をサポートするメールを送ったり、利用状況に関するアンケートをお願いしたりして、顧客との関係を継続する。
これまで見てきたフレームワークや施策を効果的に実行し、プロジェクトを成功させるためには、いくつか押さえておくべき重要なポイントがあります。
顧客体験の向上は、マーケティング部やサポート部など、特定の部署だけで完結するものではありません。商品企画から開発、販売、アフターサポートまで、すべての部署が連携して初めて、一貫性のある優れた体験を提供できます。 そのためには、まず経営層が顧客体験向上の重要性を理解し、強力なリーダーシップを発揮することが不可欠です。「顧客第一主義」を単なるスローガンで終わらせず、全社的な文化として根付かせるためのトップダウンの働きかけが、プロジェクト成功の基盤となります。
顧客体験を向上させるための最大のヒントは、顧客自身が持っています。顧客の声(VOC - Voice of Customer)を継続的に収集し、それを分析して施策に活かす仕組みを構築することが重要です。
アンケートやレビュー、SNSでの言及、コールセンターへの問い合わせ内容など、あらゆるチャネルから顧客の生の声を集めましょう。集めた声をただ眺めるだけでなく、ツールを活用して定量的に分析したり、定期的にチームで共有会を開いたりして、サービス改善のアクションに繋げる仕組みを作ることが大切です。
最初から大規模で完璧なプロジェクトを目指す必要はありません。むしろ、まずは影響範囲が限定的で、かつ成果が出やすい領域から「スモールスタート」で始めることをお勧めします。 小さな施策でも、成功してKPIが改善すれば、それはチームの自信となり、プロジェクトをさらに推進する力になります。
また、経営層や他部署に対しても具体的な成功実績を示すことができるため、より大きな予算や協力を得やすくなるというメリットもあります。小さな成功体験を積み重ねることが、最終的に大きな変革へと繋がっていくのです。
最後に、理論だけでなく、実際に企業がどのようにして顧客体験の向上に成功しているのか、具体的な事例を見ていきましょう。
あるD2Cブランドでは、返品・交換の問い合わせが電話やメールに集中し、対応に多くの工数がかかっていました。そこで、購入後の体験を改善するツール「Recustomer」を導入し、顧客がWeb上で返品・交換手続きを完結できる仕組みを構築しました。
結果、問い合わせ工数が大幅に削減されただけでなく、顧客からは「いつでも手続きができて便利」と高評価を獲得。「もし合わなくても、このストアなら簡単に交換できる」という安心感が生まれ、これまで購入をためらっていた顧客層の獲得にも成功。スムーズな購入後体験が、結果的にストア全体の再購入率を向上させた好例です。
大手アパレル企業では、店舗スタッフが顧客一人ひとりの過去の購入履歴や好みを把握し、それに基づいたスタイリング提案を行う「One to One接客」を強化しています。専用の顧客管理アプリを活用し、来店予約やオンラインでの事前相談も可能に。
「私のことを分かってくれている」という特別感が顧客の満足度を高め、顧客単価と来店頻度の向上に繋がっています。オンラインとオフラインを融合させ、一貫したパーソナルな体験を提供しているのが成功の鍵です。
アウトドア用品メーカーのスノーピークは、ユーザー参加型のキャンプイベント「Snow Peak Way」を長年にわたり開催しています。このイベントは、単なる商品販売の場ではなく、ユーザーと開発者が直接対話し、製品へのフィードバックを行ったり、ブランドの思想を共有したりする「共創」の場です。
顧客は単なる消費者ではなく、ブランドを共に育てるパートナーであるという意識を持つようになり、非常に強いエンゲージメントが生まれています。このようなコミュニティ活動を通じて、顧客との長期的な関係を築き、熱狂的なファンを育てています。
本記事では、顧客体験を向上させるための具体的なステップから、すぐに使える施策アイデア、そして成功事例までを網羅的に解説しました。
顧客体験の向上に、魔法のような特効薬はありません。しかし、今回ご紹介したフレームワークに沿って自社の課題を一つひとつ見つけ、地道に改善を積み重ねていくことで、顧客との関係は着実に深まっていきます。
特に、多くの企業が見落としがちな「購入後」の体験には、競合と大きな差をつけるチャンスが眠っています。この記事をきっかけに、ぜひあなたの会社でも顧客体験向上の第一歩を踏み出してみてください。
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