「顧客体験の重要性は理解しているが、具体的に何をすれば効果的に高められるのか?」 「他社はどんな施策で成功しているのだろう?自社で応用できるアイデアが欲しい」
顧客体験(CX)がLTV(顧客生涯価値)向上の鍵だとわかっていても、多くの担当者様が次の一手に悩んでいるのではないでしょうか。顧客体験を高める施策は、やみくもに実行しても期待する成果は得られません。顧客の心理を深く理解し、どの瞬間に価値を感じるのかを捉えた上で、戦略的にアプローチすることが不可欠です。
本記事では、そんな課題を解決するために、顧客体験を格段に高めるための「12の具体的なアイデア」を購入フェーズ別にご紹介します。さらに、施策を成功に導くための重要な3つの視点や、国内外の成功事例も交えながら、LTVを最大化する方法を徹底解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたのビジネスに新たな価値をもたらす、顧客体験向上のための明確なヒントが手に入っているはずです。
施策を考える前に、まずは「顧客体験(CX)」という言葉の定義と、なぜ今それが重要なのかを正しく理解しておきましょう。この共通認識が、効果的なアクションの土台となります。
顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)とは、顧客が商品を認知してから、購入、利用、そしてアフターサポートに至るまで、ブランドと関わる全ての接点(タッチポイント)で得られる「総合的な体験」を指します。
よく似た言葉に「UX(ユーザーエクスペリエンス)」や「顧客満足(CS)」がありますが、これらとの違いを理解することが重要です。
UX(ユーザーエクスペリエンス)
主にWebサイトやアプリなど、特定のプロダクトの「使いやすさ」や「分かりやすさ」といった、限定的な接点での体験を指します。
顧客満足(CS)
特定の商品や一回の接客に対する「満足度」という、瞬間的な評価を指します。
つまり、UXや顧客満足は、CXを構成する一部分です。優れたCXとは、Webサイトが見やすいだけでなく、問い合わせ対応が丁寧で、届いた商品に感動があり、返品手続きもスムーズ…といった、ジャーニー全体を通じた一貫性のあるポジティブな体験の総和なのです。
現代の市場では、多くの商品やサービスがコモディティ化(同質化)し、品質や価格だけで差別化を図ることが難しくなっています。このような背景から、顧客は「何を」買うかだけでなく、「誰から、どのような気持ちで」買うかを重視するようになりました。
優れた顧客体験は、顧客に「このブランドから買ってよかった」という感情的な繋がりを生み出します。この繋がりが、価格競争から脱却し、顧客に選ばれ続けるための最も強力な武器となるのです。
顧客体験を高めることは、最終的に「顧客体験価値」の向上に繋がります。これは、顧客が商品やサービスから得られる機能的な価値(便利さなど)と、情緒的な価値(喜び、信頼など)を合わせた、顧客が感じる総合的な価値のことです。
この体験価値が高いほど、顧客はブランドへの信頼と愛着を深め、熱心なファンとなります。ファンになった顧客は商品を繰り返し購入し、知人にも勧めてくれるため、LTV(顧客生涯価値)が飛躍的に向上します。つまり、顧客体験を高めることは、企業の持続的な成長に不可欠な投資活動なのです。
顧客体験を高めるといっても、闇雲に施策を打つだけでは効果がありません。「最高の顧客体験」を設計するためには、基本となる3つの重要な視点を持つことが大切です。
顧客は、ブランドに対して一定の「期待」を持っています。商品を注文すれば、きちんと届く。問い合わせをすれば、返事が来る。これらは当たり前の期待です。顧客体験を高める第一歩は、この当たり前の期待を確実に満たすこと。そして、その上で顧客の期待を「少しだけ」超えるポジティブな驚きを意図的に作り出すことです。
例えば、予想より1日早く商品が届く、商品に手書きのメッセージが添えられている、といった小さなサプライズが、「このブランドは私のことを大切に思ってくれている」という感動を生み、強い記憶として残ります。
「期待を超える」ことと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが、顧客が体験するであろう「不快・不満・面倒」を徹底的に取り除くことです。どれだけ素晴らしい商品でも、購入後の体験で一度でもストレスを感じさせてしまえば、それまでのポジティブな印象は一気に損なわれてしまいます。
特に、ECサイトにおける「送料が分かりにくい」「返品手続きが複雑で電話も繋がらない」といった体験は、顧客が二度とそのサイトを訪れない原因になりかねません。顧客体験を高める上で、新たな価値を「足し算」することばかり考えがちですが、まずは顧客のストレス要因を「引き算」すること。これこそが、顧客ロイヤルティの土台を築く上で最も効果的なアプローチなのです。
全ての顧客に同じサービスを提供する画一的なアプローチでは、顧客の心に深く響く体験は生まれません。顧客の過去の購買履歴や行動データに基づき、一人ひとりに合わせたコミュニケーションや提案を行う「パーソナライゼーション」は、顧客体験を高める上で不可欠な要素です。
「あなたへのおすすめ商品」といったレコメンド機能はもちろん、「〇〇様、前回の△△はいかがでしたか?」といった個別のアフターフォローも有効です。「大勢の中の一人」ではなく、「特別な一人」として扱われていると感じることで、顧客はブランドに対して強い親近感と信頼感を抱くようになります。
ここでは、具体的な施策のアイデアをカスタマージャーニーのフェーズ別に12個、より詳しくご紹介します。自社の課題に合わせて、取り入れやすいものから試してみてください。
お役立ちコンテンツで専門家になる
商品を直接的に宣伝するのではなく、顧客が抱える悩みや課題を解決するための有益な情報(ブログ記事、動画、診断コンテンツなど)を提供します。これにより、ブランドは単なる「売り手」から「信頼できる専門家」へと変わり、購入前からポジティブな関係を築くことができます。例えば、スキンケアブランドが肌質診断コンテンツを提供するなどがこれにあたります。
インタラクティブな体験で不安を解消する
AR(拡張現実)による家具の試し置きや、アパレルのバーチャル試着など、顧客が能動的に商品を試せる体験を提供します。「サイズが合わなかったらどうしよう」「部屋の雰囲気に合うかな」といった購入前の不安を解消し、ワクワクする楽しい買い物体験を創出します。
UGC(口コミ)をブランドの資産にする
実際に商品を使用した顧客のSNS投稿やレビューを、公式サイトの商品ページや広告で積極的に活用します。企業からのメッセージよりも、利用者である第三者のリアルな声は信頼性が高く、未来の顧客の購入を強力に後押しします。顧客を巻き込み、共にブランドを育てる姿勢を示すことにも繋がります。
透明性の高い情報開示で共感を呼ぶ
商品の素材や産地、製造プロセス、ブランド設立の背景にあるストーリーなどをオープンに伝えます。なぜこの価格なのか、どのような想いで作られているのか。その背景を知ることで、顧客は価格以上の価値を感じ、ブランドの思想に共感するファンとなります。
究極にスムーズな決済体験
購入時のストレスは離脱の最大の原因です。入力項目を極限まで減らし、住所などを自動入力するEFO(入力フォーム最適化)はもちろん、Apple PayやAmazon Payのようなワンクリック決済を導入することで、「気づいたら購入が終わっていた」というレベルのストレスフリーな体験を目指します。
マイクロコピーでブランドの人柄を伝える
ボタンの文言一つで、顧客が感じる印象は大きく変わります。例えば、エラーメッセージを「入力に誤りがあります」ではなく、「おっと、郵便番号が少し違うようです。もう一度確認いただけますか?」のように、親しみやすく丁寧な言葉遣いにすることで、機械的なプロセスに温かみを与え、ブランドの人柄を伝えます。
ちょっとしたサプライズを仕掛ける
購入完了ページやサンクスメールで、予想外のプレゼントを用意する施策です。例えば、「ご購入ありがとうございます!感謝の気持ちとして、次回使える500円クーポンをプレゼントします」といったメッセージを表示するだけで、顧客の喜びは大きく高まり、次回の購入にも繋がります。
顧客に選択の自由を与える
ギフトラッピングのデザインを複数から選べるようにしたり、配送方法や日時を細かく指定できるようにしたりと、顧客に「自分で選べる」自由を提供します。これにより、顧客は自分の購入体験をコントロールしている感覚を得られ、満足度が高まります。同時に、追加料金なども分かりやすく提示することが信頼に繋がります。
記憶に残る開封体験(Unboxing)を演出する
商品が届き、箱を開ける瞬間は、顧客の期待が最高潮に達するクライマックスです。ブランドロゴ入りのテープや、美しいデザインの梱包材、心のこもった手書きのサンクスカード、気の利いたノベルティなどを通じて、この瞬間を特別なイベントへと昇華させます。感動した顧客がSNSでシェアすれば、それは最高の広告となります。
Proactive(能動的)なアフターフォロー
顧客から問い合わせが来るのを待つのではなく、企業側から先回りしてサポートする姿勢が信頼を生みます。例えば、商品到着の翌日に「無事にお届けできましたでしょうか?商品の使い方はこちらの動画をご覧ください」といったメールを送ることで、顧客は「大切にされている」と感じ、安心して商品を使うことができます。
究極にシームレスな返品・交換体験
購入後の不安を解消する最も強力な施策の一つが、「もしもの時」の対応です。電話やメールでの面倒なやり取りを一切なくし、顧客がWeb上で24時間いつでも簡単に返品・交換を申請・完結できるフローを設計します。このストレスフリーな体験は、「このお店なら安心して挑戦できる」という絶大な信頼を生み、結果として購入率の向上にも貢献します。
購入者限定の「特別扱い」
顧客を「一度買ってくれた人」で終わらせず、「仲間」として迎え入れる体験を提供します。購入者だけが参加できるオンラインコミュニティの運営、新商品の先行販売会への招待、誕生日月の特別オファーなど、「あなたは私たちにとって特別な存在です」というメッセージを伝えることで、顧客はブランドへの強い帰属意識と愛着を抱くようになります。
最後に、顧客体験を高めることに成功している企業の具体的な事例を見ていきましょう。他社の成功の背景にある思想や戦略を学ぶことで、自社の取り組みのヒントが見つかるはずです。
ECサイト、特にアパレルなどでは「サイズが合わなかったらどうしよう」という不安が購入の大きな障壁となります。あるD2Cブランドでは、この「もしもの時」の不安を取り除くことが顧客体験を高める鍵だと考え、返品・交換プロセスを抜本的に見直しました。
Recustomerを導入し、従来メールや電話で行っていた煩雑な手続きを、顧客がいつでもWeb上で完結できるシステムへと変更。これにより、顧客は時間や手間をかけることなく、スムーズに商品を交換できるようになりました。
この「究極にシームレスな返品・交換体験」は、「このストアなら安心して試せる」という絶大な信頼感を生み出し、購入率の向上に直接的に貢献。さらに、このポジティブな体験がSNSでシェアされることで、新たな顧客獲得にも繋がっています。
スターバックスは、高品質なコーヒーを提供するだけでなく、「家庭(ファーストプレイス)」と「職場(セカンドプレイス)」のどちらでもない、「第三の場所(サードプレイス)」という価値を提供することで、顧客体験を高めています。
心地よい音楽、リラックスできるソファ、無料Wi-Fi、そしてスタッフとのフレンドリーな会話。これら全てが一体となって、顧客が自分らしく過ごせる快適な空間を創り出しています。顧客はコーヒーを消費するだけでなく、スターバックスという空間で過ごす「時間」そのものに価値を感じているのです。これは、商品という機能的価値だけでなく、情緒的な価値をいかに高めるかという点で、非常に示唆に富んだ事例です。
動画配信サービスの巨人であるNetflixは、強力なパーソナライゼーションによって顧客体験を高めています。Netflixのトップページに表示されるコンテンツは、ユーザー一人ひとりの視聴履歴、検索行動、評価などの膨大なデータを基に、独自のアルゴリズムによって最適化されています。
ユーザーは、数多の作品の中から自分で探す手間をかけることなく、「自分の好みを理解してくれている」と感じるレコメンドを受け取ることができます。この「自分ごと化」された体験が、サービスへの満足度と継続利用率を高める大きな要因となっています。データに基づき、顧客が求めるものを先回りして提供する好例です。
UX(ユーザーエクスペリエンス)がWebサイトやアプリなど、特定のプロダクトにおける「使いやすさ」という点の体験を指すのに対し、CX(顧客体験)は広告、店舗、商品、サポートなど、ブランドと顧客の全ての接点を横断した総合的な体験を指します。優れたUXは、優れたCXを構成する重要な要素の一つ、と考えると分かりやすいでしょう。
まずは「現状把握」から始めることを強くお勧めします。NPS®などのアンケート調査や顧客インタビューを通じて、顧客が現在どのような体験をしており、どの部分に満足し、どこに不満やストレスを感じているのか(顧客の声=VOC)を可視化することが、効果的な施策立案の第一歩となります。
本記事でも紹介したスターバックスは「空間」という体験価値を、Netflixは「パーソナライズ」という体験価値を提供することで成功しています。また、ECビジネスにおいては、Recustomerのようなツールを活用し、従来はコストと捉えられていた「返品・交換」のプロセスを、むしろ顧客の信頼を高める機会へと転換させている事例が増えています。
本記事では、顧客体験を高めるための3つの重要な視点と、具体的な12の施策アイデア、そして成功事例を解説しました。
顧客体験を高める取り組みは、一つひとつの施策は小さく見えるかもしれません。しかし、その小さな感動やストレスの解消の積み重ねが、やがて顧客の中に「このブランドでなくてはならない」という、他社には真似できない大きな価値を築き上げます。
特に、多くの企業がまだ十分に手を付けられていない「購入後」の体験には、競合と差をつける大きなチャンスが眠っています。この記事を参考に、ぜひあなたのビジネスでも顧客体験を高めるアクションを始めてみてください。
あなたのブランドに、特別な購入体験を