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顧客体験設計(CXデザイン)の完全ロードマップ|5ステップと重要フレームワーク、成功事例まで解説

 

優れた顧客体験は、偶然生まれるものではありません。それは、顧客の行動や感情を深く理解し、すべての顧客接点(タッチポイント)を横断して、意図的に『設計』されるものです。

 

しかし、その「設計」プロセスは複雑です。 

 

「何から始め、どのような手順で進めるべきか?」

 「購入前の体験にばかり注力し、購入後のフォローまで含めた一貫したジャーニーを描けていない…」 

「そもそも、UI/UX設計と顧客体験(CX)設計は何が違うのか?」

 

このような課題意識を持つ、プロジェクト責任者や担当者の方も多いのではないでしょうか。

 

本記事では、その課題を解決するため、顧客体験設計(CXデザイン)の『完全ロードマップ』を提示します。調査・分析から実装・改善までの具体的な5つのステップ、設計に不可欠な重要フレームワーク、そして国内外の成功事例まで、CX設計プロジェクトを成功に導くための知識を体系的に網羅しました。

この記事を読み終える頃には、あなたは顧客との長期的な関係を築く「設計者」として、自信を持ってその第一歩を踏み出せるようになっているはずです。

 

顧客体験設計(CXデザイン)とは?UI/UX設計との決定的な違い

 

 

顧客体験の設計について考える前に、まずその定義と、よく似た言葉である「UI/UX設計」との違いを明確にしておきましょう。この違いを理解することが、効果的な顧客体験設計の第一歩となります。

 

顧客体験設計の定義:点ではなく、ジャーニー全体を設計する思考

UI/UX設計と顧客体験(CX)設計の最も大きな違いは、その対象範囲です。

 

UI/UX設計(ユーザーインターフェース/ユーザー体験設計)

主に特定のプロダクトやサービス(Webサイト、アプリなど)の使いやすさや、利用時の心地よさといった「点の体験」を設計します。

 

顧客体験(CX)設計

顧客がブランドを認知する最初の瞬間から、購入、そして購入後のサポート、さらには長期的な関係に至るまで、全ての顧客接点(タッチポイント)を横断した「線や面の体験」を設計します。

 

つまり、Webサイトの使いやすさ(UX)は、顧客体験(CX)を構成する重要な要素の一つではありますが、それが全てではありません。CX設計は、オンライン・オフラインを問わず、顧客とブランドが関わる全ての体験を俯瞰し、一貫性のある感動的な物語を紡ぎ出す、より広範で戦略的な活動なのです。

 

なぜ今、場当たり的な改善ではなく意図的な「設計」が重要なのか?

市場にモノやサービスが溢れ、品質や価格だけでは差別化が難しい現代において、顧客は「何を」買うかだけでなく、「誰から、どのような体験を通じて」買うかを重視するようになっています。

 

場当たり的な改善だけでは、顧客接点ごとに体験が分断され、ブランドとしての一貫したメッセージを届けることができません。例えば、Webサイトは非常に使いやすいのに、問い合わせの電話対応が悪い、あるいは配送された商品の梱包が雑、といったことがあると、顧客はブランド全体に不信感を抱いてしまいます。

 

こうした体験の分断を防ぎ、顧客の期待を超える感動的な瞬間を継続的に生み出すためには、全ての顧客接点を意図的に「設計」することが不可欠です。緻密に設計された顧客体験は、顧客のロイヤルティを高め、LTV(顧客生涯価値)を最大化させる、最も強力な競争優位性となるのです。

 

顧客体験設計を成功させる5つのステップ【完全ロードマップ】

 

 

では、顧客体験設計は具体的にどのようなプロセスで進めればよいのでしょうか。ここでは、プロジェクトを成功に導くための標準的なロードマップを5つのステップで解説します。

 

Step 1: 調査・分析フェーズ(顧客を深く理解する)

すべての設計は、顧客を深く、正しく理解することから始まります。このフェーズの目的は、データと共感の両面から顧客インサイト(顧客自身も気づいていない深層心理)を抽出することです。

主な手法

  • 定量調査: アンケート調査(NPS®など)、アクセス解析、購買データ分析
  • 定性調査: 顧客インタビュー、行動観察調査、ユーザビリティテスト

アウトプット例

  • ペルソナ: 理想の顧客像を具体的な人物として描き出したもの
  • エンパシーマップ: ペルソナが見ているもの、聞いていること、考えていること、感じていることを整理し、共感を深めるツール

 

Step 2: 定義・構想フェーズ(理想の体験を定義する)

調査・分析フェーズで得られたインサイトに基づき、顧客にどのような価値を提供し、どのような体験をしてもらうべきかを定義します。

主な手法

  • カスタマージャーニーマップの作成: ペルソナの行動、思考、感情の起伏を時系列で可視化し、課題(ペインポイント)と機会(オポチュニティ)を特定します
  • バリュープロポジションの定義: 顧客の課題を解決し、競合にはない独自の価値を定義します

 

ポイント

ここで定義した「理想の体験」が、以降の設計プロセス全体の北極星となります。チーム全員で共通認識を持つことが重要です。

 

Step 3: 設計・プロトタイプフェーズ(体験を具体化する)

定義した理想の体験を、具体的な形に落とし込んでいきます。各顧客接点での詳細なインタラクションや、サービス提供側の動きまでを設計します。

主な手法

  • サービスブループリント: 顧客の行動だけでなく、その裏で動く従業員の行動やシステム(バックステージ)まで含めて可視化し、サービス全体の流れを設計します
  • プロトタイピング: ワイヤーフレームやモックアップを作成し、実際の体験をシミュレーションすることで、設計の妥当性を検証します

 

最重要ポイント

このフェーズでは、見落とされがちな「購入後(ポストパーチェス)体験」の設計に特に力を入れるべきです。配送状況の通知、開封体験(Unboxing)、そして返品・交換プロセスなど、購入後の体験こそが顧客の最終的な印象を決定づけ、ロイヤルティに直結します。

 

Step 4: 実装・展開フェーズ(体験を世に出す)

設計した体験を、実際のサービスとして構築し、顧客に提供します。このフェーズでは、エンジニア、デザイナー、マーケター、サポート担当など、部門を横断した連携が不可欠です。

ポイント

  • アジャイルな開発: 最初から完璧を目指すのではなく、重要な機能から段階的にリリースし、顧客の反応を見ながら改善を繰り返すアプローチが有効です
  • 社内への浸透: 新しい顧客体験を提供する上で、従業員がその価値や目的を理解していることが重要です。社内向けのトレーニングや情報共有を徹底しましょう

 

Step 5: 測定・改善フェーズ(体験を育てる)

顧客体験の設計は、一度リリースしたら終わりではありません。顧客に提供した体験が本当に価値を生んでいるのかを測定し、継続的に改善していく必要があります。

主な手法

  • 効果測定: NPS®、LTV、CES(顧客努力指標)といったKPIを定点観測し、施策の効果を定量的に評価します
  • フィードバック収集: 顧客からのレビューや問い合わせ、SNSでの言及などを通じて、定性的なフィードバックを収集します

 

ポイント

このステップは、Step 1の「調査・分析フェーズ」へと繋がり、顧客体験を常に最新の状態にアップデートしていくためのPDCAサイクルを形成します。

 

顧客体験設計で失敗しないための3つの原則

 

 

顧客体験設計のプロセスをただなぞるだけでは、必ずしも成功するとは限りません。プロジェクトを成功に導くためには、根底に流れるべき重要な「原則」を理解しておく必要があります。

 

1.サイロ化を防ぎ、全社横断の体制で取り組む

顧客体験は、マーケティング部、営業部、開発部、カスタマーサポート部といった、あらゆる部署の活動の総和です。しかし、多くの企業では部署間の連携が取れず、情報が分断される「サイロ化」が起きています。 この状態では、一貫した顧客体験の設計は不可能です。

 

経営層がリーダーシップを発揮し、部署の壁を越えた横断的なプロジェクトチームを組成することが、成功の絶対条件となります。各部署が持つ顧客情報を共有し、同じゴールに向かって進む体制を築きましょう。

 

2.一貫したブランドストーリーを描き、全ての接点で体現する

優れた顧客体験設計には、核となる「ブランドストーリー」が存在します。自社が何者で、顧客にどのような価値を提供したいのか。その一貫した物語を、広告、Webサイト、店舗、商品、サポート対応といった全ての顧客接点(タッチポイント)で体現することが重要です。

 

例えば、「地球環境への配慮」を掲げるブランドなら、商品の素材だけでなく、梱包材や配送方法に至るまで、その思想が反映されていなければなりません。この一貫性が、ブランドへの信頼と共感を育みます。

 

3.顧客の期待を「少しだけ」超える体験を積み重ねる

顧客を感動させる体験というと、何か途方もなく大きなサプライズを考えがちですが、必ずしもその必要はありません。むしろ重要なのは、基本的な期待(約束通りの日時に商品が届く、問い合わせにきちんと答えてくれるなど)を確実に満たした上で、顧客の期待を「少しだけ」超えるポジティブな体験を地道に積み重ねることです。 

 

手書きのメッセージカードが添えられていた、返品の対応が驚くほどスムーズだった、といった小さな感動の積み重ねが、顧客の心に「このブランドは信頼できる」という大きな印象を残し、長期的なファンへと繋がっていくのです。

 

顧客体験の設計に役立つ代表的なツール

 

 

顧客体験設計の各プロセスを効率化し、質を高めるためには、適切なツールの活用が欠かせません。ここでは、設計プロセスを支える代表的なツールをご紹介します。

 

【フェーズ別】設計プロセスを支えるツール

調査・分析フェーズ

アクセス解析ツール(例: Google Analytics): 顧客のサイト内行動を定量的に把握します。

ヒートマップツール(例: Hotjar): 顧客がページのどこを注目しているかを可視化します。

アンケートツール(例: SurveyMonkey): NPS®調査や顧客満足度調査を実施します。

 

定義・構想フェーズ

オンラインホワイトボードツール(例: Miro FigJam): チームでブレインストーミングを行ったり、カスタマージャーニーマップを共同で作成したりするのに役立ちます。

 

設計・プロトタイプフェーズ

デザインツール(例: Figma): Webサイトやアプリの画面設計や、動きのあるプロトタイプを作成します。

 

測定・改善フェーズ

上記の各種分析ツールに加え、A/Bテストツール(例: Juicer)などを活用し、改善施策の効果を検証します。

 

【購入後体験の設計・向上に欠かせないRecustomer】

これまでのツールが主に「購入まで」の体験設計をサポートするのに対し、顧客ロイヤルティを決定づける「購入後」の体験設計を高いレベルで実現するためには、専門的なツールが不可欠です。

理想の購入後体験を設計図に描いたとしても、それを手動で、全ての顧客に、安定して提供し続けるのは現実的ではありません。そこで活躍するのが「Recustomer」です。

Recustomerは、設計した理想の体験を具現化し、自動化するための強力なプラットフォームです。

 

配送追跡ページのカスタマイズ

配送業者の無機質な追跡ページではなく、自社のブランドの世界観を反映したページを設計・実現できます。これにより、顧客が最も知りたい情報にアクセスする瞬間を、新たなブランド接点に変えることが可能です。

 

シームレスな返品・交換フロー

顧客が24時間いつでもWeb上で返品・交換手続きを完結できる体験を設計できます。「面倒でストレスフル」だった体験を、「簡単で安心」な体験へと転換し、ブランドへの信頼を高めます。

 

このように、Recustomerは単なるツールではなく、顧客体験設計の最も重要なフェーズの一つである「購入後体験」を、設計図通りに、かつ効率的に実現するための実行エンジンとして機能します。

 

優れた顧客体験設計の成功事例に学ぶ

 

 

最後に、優れた顧客体験設計で成功を収めている企業の事例を見ていきましょう。理論やプロセスだけでなく、実際の事例から学ぶことで、自社で応用できる具体的なヒントが見つかるはずです。

 

事例1:【購入後体験の設計】Recustomerが可能にするシームレスなアフターサービス体験

ECビジネスにおいて、返品・交換は避けて通れないプロセスですが、多くの企業ではこの体験の設計が後回しにされがちです。あるアパレルブランドは、この「購入後」の体験こそが顧客との信頼関係を築く鍵だと考え、Recustomerを導入してアフターサービス体験を再設計しました。

同社が設計したのは、「顧客が一切ストレスを感じることなく、むしろブランドへの信頼を深める返品・交換体験」です。Recustomerを使い、電話やメールでの煩雑なやり取りを一切なくし、顧客が自身の好きなタイミングでオンラインで手続きを完結できるフローを構築しました。

結果として、顧客満足度が向上し、SNS上では「ここのお店は対応が神。安心して買い物ができる」といったポジティブな口コミが拡散。一度返品・交換を経験した顧客の再購入率が、未経験の顧客を上回るという成果を達成しました。これは、購入後体験を意図的に設計し、ツールで実現することで、ピンチをチャンスに変えた典型的な成功事例です。

 

Recustomer導入事例をもっと見る

 

事例2:【世界観の設計】無印良品に学ぶ「これでいい」という思想の体現

無印良品は、「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な満足感を顧客に提供するという、明確な思想をブランドの核に据えています。この思想は、商品企画から店舗デザイン、広告コミュニケーションに至るまで、全ての顧客接点で一貫して体現されています。

 

商品はシンプルで飽きのこないデザイン。店舗は余計な装飾を排し、落ち着いた空間。広告は多くを語らず、製品の背景にある思想を静かに伝える。これらの設計された体験を通じて、顧客は無印良品の持つ独特の世界観に共感し、信頼を寄せます。特定の強い個性を打ち出すのではなく、顧客の生活に寄り添うという思想そのものが、強力な顧客体験として設計されているのです。

 

事例3:【デジタルとリアルの融合】オイシックス・ラ・大地のエンゲージメント設計

食品宅配サービスのオイシックス・ラ・大地は、デジタルとリアルの接点を巧みに融合させ、高い顧客エンゲージメントを生み出しています。

 

Webサイトやアプリでは、ただ商品を売るだけでなく、生産者の顔が見えるストーリーや、食材を使ったレシピといったコンテンツを豊富に提供。これにより、顧客は購入前から食の楽しさを体験します。そして、実際に届く商品(リアル)には、そのストーリーを裏付ける品質と鮮度があります。

 

さらに、商品と一緒にお届けするカタログや、購入者限定のオンラインイベントなどを通じて、顧客との対話を継続。デジタルでの利便性と、リアルでの食の感動、そして継続的なコミュニケーション。これらを有機的に連携させる体験設計が、同社の高い継続率を支えています。

 

まとめ:顧客体験設計は、ブランドと顧客の長期的な関係を築く設計図である

本記事では、顧客体験設計の定義から、具体的な5つのステップ、成功のための原則、そして事例までを網羅した「完全ロードマップ」をご紹介しました。

 

優れた顧客体験は、もはや一部の先進的な企業だけのものではありません。顧客一人ひとりと向き合い、その全行程(ジャーニー)における体験を緻密に設計し、提供し続けること。これこそが、あらゆるビジネスにおいてLTVを最大化し、持続的な成長を遂げるための普遍的な成功法則です。

 

特に、これまで見過ごされがちだった「購入後の体験設計」には、競合と差をつける大きなチャンスが眠っています。この記事が、あなたの会社で顧客体験という名の、顧客とブランドの未来を築く「設計図」を描くための一助となれば幸いです。

 

あなたのブランドに、特別な購入体験を