「なぜ日本はキャッシュレス化が進まないのか?」
世界の主要国ではキャッシュレス決済が日常化する中、日本だけが“現金大国”と呼ばれ続けています。コロナ禍やデジタル社会の進展でキャッシュレスの機運は高まっていますが、普及率はいまだに国際的に見て低水準です。
現金志向の文化、ATM網や治安の良さといった日本独自の事情はもちろん、中小店舗や高齢者層の壁、個人情報への不安や政策面の遅れなど、「キャッシュレスが遅れている理由」には多面的な背景があります。
本記事では、最新データによる世界比較から、日本特有の現金信仰やインフラ・社会構造の特徴、コロナ禍での変化、そして今後キャッシュレス化を加速するための課題とヒントまでを徹底解説します。
「なぜ日本だけキャッシュレス化が進まないのか?」という素朴な疑問から、ビジネスや自治体の現場で使える根拠や提案まで、あらゆる立場で役立つ内容を網羅しています。
“遅れの理由”を正しく知り、日本のキャッシュレス社会の未来を一緒に考えてみませんか?
日本のキャッシュレス決済比率は、2022年時点で36.0%と過去最高を記録しました。
これは、2015年の18.0%から約2倍に増加しており、政府が掲げる「2025年までに40%」という目標も見えてきています。
参考:一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2023」
しかし、この数値は世界平均やキャッシュレス先進国と比べると依然として低い水準です。
なお、キャッシュレス決済の内訳には、クレジットカード、電子マネー(Suica、Edy等)、QRコード決済(PayPay、LINE Pay等)が含まれています。
国・地域 |
キャッシュレス決済比率(推計) |
中国 |
約83% |
韓国 |
約93% |
スウェーデン |
約98% |
ノルウェー |
約96% |
イギリス |
約65% |
アメリカ |
約60% |
日本 |
36% |
中国や韓国、北欧諸国は“現金お断り”の店舗も多く、日常生活のほぼすべてがキャッシュレスで完結します。
例えばスウェーデンでは現金流通量が全体の1%未満とも言われ、公共交通や屋台までデジタル決済が当たり前です。
一方、日本は都市部こそQRコード決済やタッチ決済が進んだものの、全国的な普及や現金ゼロ社会への移行はまだ遠い現実です。
このギャップの要因については、次のセクションで「なぜ日本はキャッシュレス化が遅れているのか」を7つの観点で詳しく解説します。
日本社会には「現金が一番安心・安全」という意識が根強く残っています。財布に現金が入っていないと不安、という人も多く、現金での支払いが“習慣”や“常識”になっている場面も少なくありません。
長年にわたって偽札や詐欺が少なく、「現金=信頼できる決済手段」という文化が、キャッシュレス推進の大きな壁になっています。
全国にコンビニATMや銀行ATMが数多く設置されている日本は、「現金をいつでもどこでも簡単に手に入れられる」国です。地方や都市部を問わず現金の引き出しや入金が便利なため、キャッシュレス決済の必要性を感じにくい環境となっています。
日本は世界でもトップクラスの治安の良さを誇ります。多額の現金を持ち歩いても盗難や強盗のリスクが少なく、落とした財布が返ってくることも珍しくありません。
この「現金を持ち歩くことへの心理的抵抗の低さ」も、キャッシュレス普及のスピードを鈍らせる要因です。
キャッシュレス決済にはスマートフォンやアプリの操作が必要なケースが多く、高齢者層や“デジタルが苦手”なアナログ世代にはハードルが高いと感じられています。
利用方法が分からず、不安・敬遠する声も根強く、世代間ギャップが普及を妨げています。
都市部のチェーン店や大手企業と異なり、中小の個人商店や地方店舗では「キャッシュレス導入の初期コスト」「決済手数料の負担」が重くのしかかります。
「導入してもお客さんの多くが現金派なら意味がない」と感じる事業者も多く、キャッシュレスの裾野を広げる上で大きな課題となっています。
「情報漏洩」「不正利用」「カード詐欺」など、キャッシュレス化には一定のリスクが伴うという印象も根強いです。メディアでの個人情報流出や決済トラブルの報道もあり、現金と比べて「安心感に欠ける」と考える層が存在します。
国や金融機関はキャッシュレス推進策を打ち出してきましたが、現場レベルでは「ポイント還元など一時的なインセンティブ頼み」「規格乱立による混乱」など、普及を阻む現実的な課題が多いのが実情です。
消費者や事業者の実態に即した施策がまだ十分に浸透していないという“現場の温度差”が、普及を鈍らせています。
新型コロナウイルス感染症の流行は、日本のキャッシュレス化に大きなインパクトを与えました。「接触を避けたい」「現金の受け渡しに不安がある」といった理由で、キャッシュレス決済への関心が一気に高まったのです。
参考:一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2023」
コンビニやスーパー、飲食店、ドラッグストアなどでQRコード決済や電子マネー、非接触クレジットカードが急速に拡大しました。
一方で、他国のような“キャッシュレス一色”には至らず、「現金派」と「キャッシュレス派」の二極化も進んでいます。
コロナ禍をきっかけに、多くの人が一度はキャッシュレス決済を試しましたが、その後も完全な“現金離れ”が進んだとは言えません。
また、飲食店や個人商店では、ポイント還元キャンペーンなど“インセンティブ”の有無でキャッシュレス利用が増減する傾向もあります。「コロナ禍はキャッシュレス普及を後押ししたが、文化的な現金信仰や日常インフラの変化までは一気に進まなかった」というのが実態です。
今後日本のキャッシュレス化を加速させるには、現場の実務課題を一つずつクリアしていく必要があります。
中小店舗・個人商店の導入負担
初期コストや決済手数料を抑える制度設計、シンプルな導入手順、端末の無償提供などのサポート強化が欠かせません。
高齢者やアナログ層へのサポート
デジタルに不慣れな人でも安心して使えるわかりやすい説明や、店頭での使い方サポート、地域ごとの普及イベントなどが効果的です。
セキュリティとトラブル対応
利用者の不安を払拭するため、万一の補償制度や24時間サポート、分かりやすいリスク説明などが信頼構築に直結します。
こうした課題への具体的な取り組みを、官民連携で徹底することが日本のキャッシュレス定着のカギです。
中国や北欧、韓国などのキャッシュレス先進国では、国や都市をあげた大胆な施策が普及を後押ししてきました。
中国
「アリペイ」や「WeChat Pay」の普及で、個人間送金・公共料金支払い・屋台決済までキャッシュレス化
スウェーデン
現金取り扱いゼロの店舗やバスも多く、国が一体となった普及推進政策が功を奏す
韓国
カード・電子マネー普及策に加え、政府主導のインフラ整備とキャンペーンを徹底
これらの国では「消費者と事業者、行政が一体で取り組み、誰もが使える環境・安心な仕組みを先回りして用意した」ことが普及の最大のポイントです。
日本も現場感のあるユーザー視点と、“みんなで変える”空気づくりが重要と言えるでしょう。
今後、日本がキャッシュレス社会へと着実に進化するためには以下のような持続的な取り組みが必要です。
「現金も使えるが、キャッシュレスのほうが“もっと便利で得”」と思える社会づくりを、自治体・企業・金融機関・消費者が一体となって目指すことが、真のキャッシュレス先進国への近道です。
日本のキャッシュレス化が遅れている理由には、現金信仰や安心感、インフラの充実、世代・地域ごとの意識差、現場のコスト負担や制度設計の課題など、複合的な背景があることが分かりました。
コロナ禍による一時的な普及の波はありましたが、抜本的な「現金文化の転換」にはまだ時間がかかっています。
しかし、世界の先進事例や、日本独自の強み・安全性を活かしながら、便利で安心なキャッシュレス社会を少しずつ実現していくことは十分に可能です。
これからは、利用者目線・現場目線の課題解決と、全員参加型のデジタル普及策がますます重要となるでしょう。
「なぜ遅れているのか」を正しく理解することは、現実的な課題の可視化と、次の一歩のヒントになります。
便利で安心なキャッシュレス社会へ。日本の未来を支えるために、できることから一つずつ変えていきましょう。