近年、消費行動のデジタルシフトが加速する中で、「EC化率(イーシーかりつ)」は日本の小売・流通・BtoBビジネスにおける最重要指標のひとつとなっています。EC化率とは、総売上に占めるEC(電子商取引)の割合を示す数値であり、「自社や業界のデジタル化がどれだけ進んでいるか」を客観的に把握できる指標です。
2025年現在、日本の物販EC化率は過去最高を記録し、業界によっては欧米や中国と並ぶ成長を見せています。しかし、「EC化率の正確な定義や計算方法が分からない」「最新の日本・世界・業界別データを知りたい」「自社の戦略立案にどう生かせばいいのか」といった悩みを抱える担当者も多いのが現状です。
本記事では、「EC化率」の意味・計算式・「EC比率」との違いから、2025年最新版の日本・世界・業界別データ、市場の推移と今後の予測、EC化率向上のメリット・課題、そして実際にEC化率を高めるための施策・成功事例まで、網羅的かつ分かりやすく解説します。
「自社やクライアントのEC化率を正しく把握し、持続的な成長戦略を描きたい」「最新の市場動向をレポートに反映したい」と考えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
今すぐ実践できるノウハウと、データドリブンな意思決定のヒントがきっと見つかります。
EC化率(イーシーかりつ)とは、「総売上(または市場規模)のうち、EC(電子商取引/ネット通販)が占める割合」を示す指標です。この数値を見ることで、業界や企業の“デジタルシフト”の進捗度を客観的に把握することができます。
EC化率を正しく把握し、同業他社や業界平均と比較することで、自社の現状把握や目標設定に役立てることができます。
EC化率の計算式は、以下の通りです。
EC化率(%)=(EC売上高 ÷ 総売上高)× 100
EC売上高
自社または業界におけるインターネット経由の販売売上(BtoC、BtoBどちらも計算可能)
総売上高
実店舗売上+EC売上など全体の売上高
【算出サンプル】
たとえば、小売業A社が年間売上100億円、そのうちEC(自社EC+モール含む)の売上が15億円だった場合のEC化率は・・・
EC化率=(15億円 ÷ 100億円)× 100=15%
つまり、A社の全売上のうち15%がECによるものである、ということを示します。
「EC化率」「EC比率」「ネット通販比率」は似た言葉ですが、厳密には指標のカバー範囲が異なります。
指標 |
定義 |
主な対象 |
EC化率 |
総売上に対するEC売上の割合 |
企業・業界・市場 |
EC比率 |
通常は「売上に占めるECチャネル比率」を指す |
企業内/部門単位 |
ネット通販比率 |
特にBtoC物販など「通販売上のうちネット経由の比率」 |
小売・通販業界 |
最新のEC化率データは、自社や業界のポジションを把握し、今後の戦略を練るうえで非常に重要です。ここでは、日本国内・海外主要国・業界別のデータをもとに、グローバルなEC市場の動向を解説します。
日本の物販分野におけるBtoC-EC化率は、コロナ禍以降のデジタルシフトによって着実に成長しています。
年度 |
物販系BtoC-EC化率 |
サービス系BtoC-EC化率 |
BtoB-EC化率 |
2020年 |
- |
- |
33.5% |
2021年 |
- |
- |
35.6% |
2022年 |
9.13% |
- |
37.5% |
2023年 |
9.38% |
- |
40.0% |
※サービス系分野についてはEC化率を求めない方針
【出典】経済産業省「令和5年度 電子商取引に関する市場調査」(2024年9月発表)
日本のEC化率は着実に成長しているものの、グローバルで見ると中国・英国などがトップクラスです。
国・地域 |
小売EC化率(2023年) |
中国 |
29.7% |
英国 |
26.5% |
米国 |
16.4% |
ドイツ |
15.4% |
フランス |
14.2% |
日本 |
9.4% |
世界平均 |
19.0% (参考値) |
【出典】eMarketer “Worldwide Retail Ecommerce Forecast 2025”(2024年版)/経済産業省「電子商取引に関する市場調査」
日本国内での業界別EC化率(2023年)は下記の通りです。
業界 |
EC化率 |
食品、飲料、酒類 |
4.29% |
生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 |
42.88% |
書籍、映像・音楽ソフト(オンラインコンテンツを除く) |
52.16% |
生活雑貨、家具、インテリア |
31.54% |
衣類・服装雑貨等 |
22.88% |
【出典】経済産業省「令和5年度 電子商取引に関する市場調査」(2024年9月発表)
EC市場全体でスマートフォン経由の取引が年々増加しています。
EC化率の変化を数値で把握し、今後の成長可能性や転換点を知ることは、経営・マーケティング戦略に不可欠です。ここでは、日本の最新トレンドと中長期的な予測を解説します。
日本のBtoC物販EC化率は、2020年のコロナ禍を境に成長カーブが加速しました。経済産業省の調査によると、物販系BtoC-EC化率は2020年の8.08%から、2023年には9.38%まで上昇しています。
コロナ禍で消費者のEC利用が一気に加速した後も、成長ペースは持続傾向にあります。
今後は「リアルとデジタルの共存=OMO(オンライン・マージ・オフライン)」の推進が、EC化率の“第2成長曲線”のカギになると考えられています。
EC市場規模(BtoC・物販分野)は年々拡大しています。2023年のBtoC-EC市場規模は15.6兆円、BtoB-ECは420兆円超。
市場規模が拡大=必ずしもEC化率が急増するとは限らない
物販分野は「新規ユーザー開拓」「リピーター育成」施策が進み、着実な伸びに
サービス系は現状5〜7%台とまだ低め
レジャー、旅行、外食のデジタル移行が今後の成長余地
市場規模×EC化率の双方をウォッチし、成長ポテンシャルの大きい業界を早期に押さえることが重要です。
2030年に向けて、AI・OMO(Online Merges with Offline)の進化がEC化率をさらに押し上げるポイントになります。
海外ではすでに「スマート店舗」「ライブコマース」「チャットコマース」など、AI&OMO活用による新たな消費体験が広がっています。国内でも大手流通企業やD2Cブランドが先行導入し、2030年には物販系EC化率が14%前後に達する可能性が複数の民間調査で示唆されています。
EC化率を高めることは、単なる「デジタル化」の枠を超え、企業の成長戦略や収益構造の改革につながります。
一方で、現場ではオペレーションや顧客体験など新たな課題も浮き彫りになります。ここでは、メリットと乗り越えるべき壁をバランスよく解説します。
ECチャネルを拡大することで、地理的な制約を超えた新規顧客の獲得や、24時間365日売上を伸ばせる点が最大の魅力です。
さらに、デジタルならではのデータ活用により、購入履歴や閲覧行動をもとにパーソナライズされた提案やリピート促進も可能となります。
こうした積み重ねは、売上増加や利益率の向上だけでなく、「LTV(顧客生涯価値)」の最大化につながる重要な成長エンジンとなります。
一方で、EC化率が上がるほど、裏側の業務負荷も増していきます。注文増による物流コストやラストワンマイルの最適化、さらにオンライン特有の返品・キャンセル対応も不可欠です。
また、実店舗のような“対面接客”がない分、商品情報の充実や、配送追跡、レビュー投稿など購入後フォローによる信頼構築も重要な課題となります。
顧客体験の質を維持しながら、効率的なオペレーションをどう両立させるかが現場のカギです。
EC化率を一方的に高めるだけでは、実店舗の価値やリアル体験が損なわれるリスクもあります。
近年は、ECと実店舗の境界をなくし、顧客視点で最適な体験を提供する「OMO(Online Merges with Offline)」の発想が主流です。
例えば、「店舗受取」「オンライン接客」「デジタルポイント共通化」など、リアルとデジタルを横断したオムニチャネル施策を推進することで、チャネルごとの強みを最大化できます。
組織・システムの壁を乗り越え、全体最適でLTVや顧客満足度を伸ばすことが、これからの成長戦略の要です。
EC化率を着実に伸ばすには、単にECチャネルを広げるだけでなく、顧客体験の全工程を最適化することが不可欠です。ここでは、多くの企業で効果が実証されている10の実践策を紹介します。
ユーザーが迷わず、ストレスなく買い物できるサイト設計はEC化率向上の土台です。特にスマホ利用が主流の今、モバイル対応・表示速度の高速化・シンプルな導線設計が不可欠。サイトの滞在率・CVR改善にも直結します。
決済時の“ひと手間”が離脱原因になることも多いため、Amazon PayやApple Pay、後払いなど多様な決済手段を導入しましょう。初回購入でも安心して決済できる環境づくりが、幅広い層の購入を後押しします。
「カートに入れたまま離脱した顧客」を逃さないために、リマインドメールやSMS、Webプッシュ通知による再アプローチが効果的です。自動配信やタイミングの最適化でCVR向上に大きく貢献します。
購買履歴や閲覧データを活用し、1人ひとりに最適化した商品レコメンドや、関連商品・上位モデルへのアップセル提案を実施。AIを活用することで、売上単価やリピート率の向上にもつながります。
SNSと連携した販売チャネルの強化も、現代のEC化率アップには不可欠です。Instagramショッピングやライブコマースを活用することで、認知〜購入までの動線を短縮し、若年層や新規層へのリーチも広がります。
「定期便」や「サブスクリプションサービス」を導入することで、継続購入やLTV(顧客生涯価値)の最大化が期待できます。安定した売上基盤と、顧客との継続的な接点づくりに役立ちます。
実店舗とECの在庫を連携し、「ECで注文し店舗で受け取る(BOPIS)」など柔軟な購買体験を提供。欠品機会の削減や、店舗送客・クロスセルにもつながり、チャネル横断で顧客満足度を高められます。
「質問があるときにすぐに相談できる環境」も購入率アップに直結します。AIチャットボットやFAQ自動応答を導入し、購入前後の疑問や不安をリアルタイムに解消しましょう。
実際に購入したユーザーのレビューや写真(UGC)を掲載することで、安心感や信頼性が向上します。口コミを重視する消費者心理に対応し、離脱防止・購買率アップにつながります。
購入後の「配送状況の可視化」や「スムーズな返品対応」も、リピート促進に直結する重要な要素です。
Recustomerの配送追跡や返品・キャンセル自動化サービスを活用すれば、通知開封率が高く、購入後も安心感のある体験を提供できます。結果として、顧客ロイヤルティの向上やリピート購入率アップが期待できます。
ここでは、実際にEC化率の大幅な向上を実現した国内外の企業事例を紹介します。施策のポイントや成果を自社の戦略にぜひ生かしてください。
ある食品系D2Cブランドでは、Instagramや独自プラットフォームでライブコマースを積極展開。シェフや商品開発者がリアルタイムで商品を紹介し、そのまま視聴画面から購入できる仕組みを導入しました。
大手アパレルブランドでは、ECと実店舗の在庫をリアルタイムで連携し、「オンライン注文→店舗受取(BOPIS)」を全面導入しました。
従来は対面・電話・FAXでの受注が主流だったBtoB資材メーカーが、オンライン見積り・発注システムを構築。製品カタログ・仕様確認から価格比較・発注までを完全オンライン化しました。
EC化率の向上には、「現状を正しく把握し、PDCAを回し続ける」ための計測・分析環境が欠かせません。ここでは、多くの企業が実務で活用する主要ツールやプラットフォームをご紹介します。
Google Analytics 4(GA4)は、ECサイトの売上データやユーザー行動を多角的に分析できる必須ツールです。EC売上と総売上(もしくは来店売上データと連携)を掛け合わせることで、自社のEC化率を自動集計・可視化できます。
さらに、GoogleのLooker Studio(旧Data Studio)と連携すれば、以下のような分析がリアルタイム・自動で行え、データドリブンな意思決定に役立ちます。
MA(マーケティングオートメーション)ツールのBrazeやKlaviyoは、以下のような機能で、「どの施策がEC化率の向上に直結しているか」を具体的に把握できます。
特にKlaviyoはShopifyや主要ECプラットフォームとの連携に強みがあり、実店舗連動のOMO施策効果も一元管理できます。
EC化率の真の底上げには、「購入後の体験最適化」も見逃せません。
Recustomerは、「購入前〜購入後」まで一気通貫で体験・成果を可視化できる最新プラットフォームです。
Google Analyticsなどのデータと組み合わせることで、施策ごとの本当の成果や「リピーターを増やす仕組み」の強化に直結します。
EC化率は、単なる“ネット売上の比率”ではなく、企業や業界のデジタル競争力を映し出す最重要指標です。
この記事で紹介したように、日本・世界・業界別のEC化率推移や成功事例を押さえ、自社の現状を正しく把握することが成長戦略の第一歩となります。
EC化率向上のためには、UI/UX最適化・多様な決済手段の導入・カゴ落ち対策・ライブコマース活用・オムニチャネル連携など、あらゆるフェーズでの改善と、新しい体験の積み重ねが求められます。さらに、Google AnalyticsやRecustomerなどのツールを使い、データドリブンな意思決定を日常的に行うことが不可欠です。
これからの時代は、リアルとデジタルを融合したOMO戦略や、AIを活用したパーソナライズ、購入後の体験最適化までも含めて、“顧客目線の価値向上”を続ける企業が勝ち残ります。
EC化率の定期的な計測・分析を習慣化し、社内外の変化に柔軟に対応しながら、持続的な成長を目指しましょう。
正しいデータと現場主導の改善サイクルが、次の成長のエンジンになります。